2025年9月21日

AI WorkflowとAI Agents - Agentic System構築の2つのアプローチを比較

矢野目 佳太

1. はじめに

大規模言語モデル(LLM)の急速な進化により、単純な文章生成を超えて、複雑で多段階のタスクを自律的に実行するシステムの構築が可能になりました。これらのシステムは総称してAgentic system(エージェンティックシステム)と呼ばれています

Anthropic[1]では、これらのAgentic systemを構築する際の重要なアーキテクチャとして、WorkflowAgentsという2つの区別を明確に定義しています。

本記事では、この2つのアプローチの違いと、それぞれの適用場面について詳しく解説します。

2. 二つの主要アプローチ:AI WorkflowとAI Agents

Agentic systemの実装において、Anthropic[1]は以下の2つのアーキテクチャを明確に区別しています。

  • AI Workflow: 人間が事前に定義した固定的な手順に従い、タスクを逐次実行するアプローチ。
  • AI Agents: 与えられた目標に対し、AIが自ら計画を立案し、タスクを自律的に実行するアプローチ。

以下で、それぞれの詳細な特徴、有効なケース、そして課題について掘り下げていきます。

3. AI Workflow

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AI Workflowの概念図 : Building effective agents

AI Workflowとは

AI Workflowは、事前に設計されたプロセスに沿って、LLMとツールを段階的に活用しながらタスクを完遂するAgentic systemです。

Zhang[2]によれば、特定の目的達成のために、複数のAI(主にLLM)を組み込んだ処理ステップを事前定義し、その手順に従って自動実行する一連のプロセスを指します。

例えば、「最新の市場動向に関するリサーチとレポート作成の自動化」というタスクを考えてみましょう。AI Workflowでは、このタスクを以下のような固定されたステップに分解して処理を進めます。

  • 1. 情報収集と要約: Web検索AIが関連するニュース記事やレポートを収集し、その内容を要約する。
  • 2. 構成案の作成: 要約された情報に基づき、別のAIがレポートの構成案(目次)を作成する。
  • 3. 本文の執筆: 構成案に沿って、各章の本文を文章生成AIが執筆する。
  • 4. 校正と推敲: 完成した文章を校正AIがチェックし、より自然で分かりやすい表現に修正する。

このように、単一のAIに一度だけ指示を出すのではなく、複数のAIやツールを連携させ、それぞれの得意な作業を分担させることで、より複雑で質の高いタスクを自動化できます。

AI Workflowの特徴

AI Workflowの最大の特徴は、決定論的で予測可能な動作である点です。

プロセスが事前定義されているため、各ステップの処理内容が明確であり、AI Agentsと比較して出力の予測性が高く、品質の一貫性を維持しやすいという重要な利点があります。

AI Workflowが有効なケース

この特徴から、AI Workflowは特に以下のようなケースで有効だと考えています。

  • 業務プロセスが定型化されているタスク: 請求書処理、定型レポートの作成、顧客からの問い合わせに対する一次回答など。
  • 高い品質と一貫性が求められるタスク: 誤った情報や予期せぬ逸脱が許されない、ミッションクリティカルな業務。
  • コンプライアンスや監査要件があるタスク: プロセスの各ステップを明確に記録・追跡する必要がある場合。

AI Workflowの課題

一方で、AI Workflowにはいくつかの課題も存在します。

  • ワークフロー構築における設計コストの高さ
    • AIやツールの最適な組み合わせ方法の設計は人間の判断に依存します。ツール選定、役割配分、実行順序の決定等、すべてが人間の専門知識と経験に基づくため、構築には相当のコストと時間を要します。
  • 要件変更への柔軟性が低い
    • ビジネス要件の変更や、データ種類の軽微な変更でも、構築済みワークフロー全体の再設計が必要になる場合があります。特に要件が流動的なPoC段階では、この制約が顕著に現れます。

ただし、Zhangら[2]の研究をはじめ、近年ではワークフロー自動生成に関する研究やフレームワークが登場し、AI Workflowの利点を維持しつつ、構築・運用コストを削減する取り組みが活発化しています。

4. AI Agents

AI Agentsの概念図 : Building effective agents

AI Agentsとは

AI Agentsは、LLMが動的に自身のプロセスとツール使用を指示し、タスクの遂行方法を自己決定するAgentic systemです。

Anthropic[1]の定義によれば、固定手順に従うAI Workflowとは異なり、目標達成のためにLLMが思考プロセスとツール使用を動的に制御し、タスク遂行の全権を握ります。エージェントは目標達成に必要なタスクを、必要な分だけ、最適な順序で自律実行します。

AI Agentsの特徴

AI Agentsの本質は自律性と適応性にあります。

状況に応じて次の行動を自己判断し、計画を動的に修正しながらタスクを遂行します。このため、必要なタスク数や手順の事前定義が困難な、複雑で変動的な問題に対して特に効果的です。

AI Agentsが有効なケース

エージェントの自律性は、信頼できる環境下でタスクをスケールさせる際に理想的です。具体的な実装例として、以下のようなケースで大きな成果が期待されています。[2]

  • 複雑なコーディング作業 (SWE-benchタスク): 「このバグを修正して」といった自然言語の指示に基づき、AIエージェントが自ら問題箇所を特定し、多数のファイルを横断的に編集・修正する。
  • コンピューター操作の自動化: 「先月の売上データをまとめて、PowerPointで資料を作成して」といった指示で、AIが実際にPCを操作し、ファイルを開き、データを分析・グラフ化し、プレゼンテーション資料を作成する。

AI Agentsの課題

この強力な自律性は、一方で潜在的なリスクもはらんでいます。AI Workflowと比較して、一般的にコストが高くなる傾向があり、予期せぬエラーが複合的に発生する可能性も高まります。エージェントが間違った判断を下した場合、その影響が後続のタスクに連鎖し、大きな問題に発展するリスクもあります。

そのため、AI Agentsを本番環境で運用する際には、その動作を監視し、逸脱を防ぐための適切なガードレール(安全策)を設置すること、そして安全なサンドボックス環境で十分なテストを行うことが不可欠です。

まとめ:どちらのアプローチを選択すべきか

「AI Workflow」と「AI Agents」は、どちらが優れているというものではなく、解決したい課題の性質に応じて使い分けるべきアプローチです。

もし解決したい課題が「プロセスの再現性が重要で、常に安定した結果が求められる定型業務」であるならば、AI Workflowが最適な選択肢となるでしょう。

一方で、「ゴールは明確だが、そこに至るまでの手順が状況によって変化する、あるいは事前に定義できない複雑な課題」に取り組むのであれば、AI Agentsのアプローチが強力な武器となります。

Agentic systemの構築は、タスクの性質を深く理解し、それに最も適したアーキテクチャを選択することから始まります。本記事が、その第一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。

参考文献

[1] Anthropic: Building effective agents, Anthropic Engineering Blog, 2024. https://www.anthropic.com/engineering/building-effective-agents

[2] Zhang, J., Xiang, J., Yu, Z., Teng, F., Chen, X., Chen, J., Zhuge, M., Cheng, X., Hong, S., Wang, J., Zheng, B., Liu, B., Luo, Y., Wu, C.: AFLOW: Automating Agentic Workflow Generation, 2024. https://arxiv.org/pdf/2410.10762